持ちつ持たれつ
昼過ぎ、家の固定電話が鳴る。相手は正覚寺向かいにある商店のおばちゃん。「10円玉があったら両替をしてほしい」という内容だった。タバコの値段が上がったことで、おつり用の10円玉がどんどん捌けてしまい、不足気味なのだそうだ。「はい分かりました」と二つ返事で電話を切り、家じゅうの10円玉をかき集める。あるだけ集めて1100枚。うちの寺では、ごくたまに両替の相談が来るのでそれに備えて数か月分のお賽銭をストックしている。
30分後、5kg近くあった10円玉は紙幣2枚になった。
落語の「百年目」という噺に栴檀と南縁草の譬えが出てくる。美しい栴檀の木の根元に醜く汚い南縁草という草が生えていた。これでは景観が悪いということで人々が南縁草をすべて引っこ抜いてしまう。するとほどなくして栴檀も枯れてしまった。後になって調べてみると、南縁草は栴檀の露で、栴檀は南縁草を肥しとして、両者は共生関係にあったのだということを人々は知ったのだった、というものである。
2022年ごろから、硬貨の預け入れに手数料がかかるようになった。寺社仏閣にとっては頭の痛い話だ。
だから今回のように大量に硬貨を引き取ってもらえると、こちらとしても大変有り難い。おばちゃんと正覚寺の関係はまさに栴檀と南縁草。お互いがwin-winとなる助け合いというのはやっぱり気持ちがいい。