ホウセンカ

この時期、当寺ではホウセンカが満開を迎える。

ほとんどの人は気にも留めないが、ごくたまにおばあちゃんが足を止めて懐かし気に花を眺めている。

「子どもの頃はね、よく種を弾いて遊んだものよ」と

おばあちゃんが言う。

どうやらホウセンカの花が遠い記憶を思い出させてくれるスイッチとなっているようだ。

毎年ホウセンカを育てているのは私の母だ。

6月になると種をまき、発芽したらポットに小分けして、大きくなったら鉢に植え直す。

だいたいひと夏に30鉢くらい作るだろうか。ダイエットは続かないのに土いじりだけはいつもマメである。

そんな母の苦労もよそにホウセンカにはいつも決まって‟お客さん”がやってくる。葉を根こそぎ食い荒らす黒い芋虫、セスジスズメの幼虫だ(煩わしいので我が家ではシンプルに「ホウセンカ虫」と呼んでいる)。

その食欲はすさまじく、大きい個体になると一日で一株を平気で食べ尽くす。

茎だけになったホウセンカは見ていてとても痛々しい。

だから母はホウセンカ虫を目の敵にしている。

見つけるや否やすぐさま駆除する。そこには慈悲のかけらもない。

手塩にかけた花だからこそ、余計に憎しみが沸くのだろう。

セスジスズメからすれば、うちは食べ放題のバイキングレストランに見えているのかもしれない。

でもできることなら、ここに卵を産み落とさないでいただきたい。

母にとっても、セスジスズメにとっても、益とはならないからである。

今年の夏も母の戦いは終わらない。