自伝 ―大学時代の話 3-

大家さんはアパートの1階に住んでいた。いつもニコニコされている70代の老夫婦。

月末になると家賃を持って大家さんのところへ行くのがこのアパートのシステムで、私が家賃を支払いに行くといつも決まって120円くれた。「好きなジュース買っておいで」と言って。

アパートの前にある自販機でジュースを買う。それを持って大家さんの元に戻る。

ジュースを飲みながら世間話をする。長いときは1時間にも及んだ。

今、思うとあれは私が寂しくならないよう、気を遣ってくれていたのかもしれない。

住み始めてひと月が経った頃、大家さんに食事に誘われた。

場所はどこかのホテルのレストラン。

夜景を眺めながらコース料理をごちそうになった。

「新しく入居してくれた全員に必ずしているんだよ」。笑いながらご主人が言う。

いい方に巡り合えたなぁ、と18歳の私は思った。

夫妻との食事はそれっきりだったが、「ジュースの時間」はこのアパートを出るまでの2年間、毎月続くのだった。