父の古希祝い
父が70歳になった。これまで親の誕生日に何か特別なことをしたことなどなかったが、たまには親孝行のマネゴトでもしようかと思い立ち、両親を食事に連れて行った。
少し予算を奮発して、一品ずつ料理が提供される和食店を選んだ。
先付けに始まり、向付、煮物、蒸し物、揚げ物…。どの皿も大変美味しく、滅多に口にできないような料理の数々に家族全員が舌鼓を打った。
6品目に入った時だった。父の箸が止まった。そして私に言った。「悪いけど、食べてくれないか」。
口に合わなかったわけではない。満腹になってしまったのだ。
結局、6~8品目の料理は父の口には入らなかった。
子どものころは、やたらと食い意地が張っていた私。そんな私に父は自分の皿のおかずをよく分けてくれた。
当時「食べられるのに食べなかった父」は、今や「食べたくても食べられない父」となってしまった。
私も今年で40歳になる。お互い年を取った。
店を出る父は満足していた。
その顔が見れただけで私も満足である。
古希祝いをして本当に良かったと思う。