お香を焚く理由

お香を焚く理由

「お仏壇の荘厳」の項にも書きましたが、荘厳の基本は三具足です。正面から見たとき、香炉を中心として左側に花瓶、右側にロウソク立てを置きます。もちろんお寺の本堂でも香炉が中心。それはつまり荘厳において一番大切なのは香りであるということです。

どうしてお香を焚くのかといいますと、それは清らかな香りがその空間内に充ち満ちる様子を、阿弥陀さまの慈悲がすべての人に等しく行き届くすがたと重ねているからです。阿弥陀さまの救いは人間を選り好みしません。「この人は信心深いから救いましょう」だとか、「あの人は一度もお寺参りに行かなかったから見捨てよう」だとか、そのような差別はありません。みんな平等。それが阿弥陀さまが阿弥陀さまたる所以です。

お香の香りも同じです。分け隔てなく誰の鼻にもまんべんなく行き渡ります(とは言え、いかに香りが届こうとも当人の意識がそこに向いていなければ、香りがないのと同じですが…)。

目には直接見えないけども、私のもとにきちんと届き、私を包んでくださるもの―。そんな仏さまのはたらきになぞらえて古来よりお香が重宝されてきたのです。

さて、お香と聞いて皆さんにとって一番馴染み深いものといえばお線香だと思います。ご家庭のお仏壇でも、お墓でも、お参りの時はお線香を焚くというのが一般的です。

その際、お線香を「立てて使う」宗旨と「寝かせて使う」宗旨があります。

皆さん、ここだけ覚えておいてくださいね。私たち浄土真宗は「寝かせて使う」宗旨です。

お線香が誕生したのは江戸時代だそうですが、それ以前は「燃香(ねんこう)」といって、大きな香炉に粉末状のお香を一続きに迷路状に並べ、一端に火種を置いて、香煙を出すという方法でした。(興味がある方は、インターネットで「常香盤」と調べてみてください)。浄土真宗がお線香を「寝かせて使う」のはその作法に則っているからです。

また、お線香を立てると何かの拍子で倒してしまった際に火災の危険性があるという実用的な意味もあります。

お線香を使用する時は香炉の直径に合わせて適当に折り、火が付いているほうを左にし、横に寝かして使います。本数に決まりはありませんが目安としては2~5本程度でいいでしょう。たまに火事かと思うくらい大量のお線香を焚く方がおられますが、大事なのは「煙」ではなく「香り」です。ほのかに香るくらいがちょうどいいのです。

ポイント:荘厳の中心は「香り」。心安らぐ良い香りのものを仏さまにお供えしよう。