生者の仏事

生者の仏事

一般の方にお寺のイメージを伺いますと、どうしても「死者と関わるもの」としての印象が強いようです。

確かにお通夜や葬儀、あるいは故人の年忌法要などでお寺と関わりますから、それは致し方のないことかもしれません。

ですが、死者との関わりは実は数ある仏事の中の一部分に過ぎません。お釈迦さまが生老病死すべてに対して教えを説いたように、お寺というのは本来、一人の人間の誕生から終焉、そしてその後に至るまで包括的に関わるものなのです。

具体的に例を挙げますと、「生者と関わる仏事(これを節寿法要といいます)」には次のようなものがあります。

  【初参式】(生後30日~100日あたり)

  赤ちゃんの初めてのお寺参りを記念して勤める法要です。

  家族そろって新しい命の誕生を仏さまに報告し、これから先も仏さまを拠り所として生きていくことを誓います。

  【七草祝い】(数え年の7歳)

  鹿児島県特有の伝統儀式で、基本的には1月7日に行われます。

  意味合い的には神道の七五三に近いですが、単に子どもの成長を祝い、これからの健康を願うというものではなく、

  楽しい時も苦しい時も仏さまが寄り添ってくださっていることを互いに確かめ合い、感謝する法要です。

  【成人式】(18歳)

  私が成人となるまでに関わりのあった先祖、親、兄弟、友人、知人に恩師諸々のご縁とご恩に感謝し、

  「お陰様の心を忘れることなくこれから社会人として旅立ちます」という決意を仏前にて表明する法要です。
  日々、仏さまと向き合う中で、外見だけでなく内面も大人となれるよう心を磨いてこそ真の成人です。

  【結婚式】

  今や結婚式と言えば圧倒的にキリスト教式が多い(一部では神前式や人前結婚式の方もおられます)ですが、

  一昔前までは地域の方々を集めて自宅のお仏壇の前で祝う仏前結婚式が主流でした。

  さすがに現代では自宅での仏前結婚式は極めて稀になりましたが、お寺はいつでも受け付けています。

  縁あって結ばれた二人が、仏さまの教えを生活の中心として支え合うことを誓い、新たな人生の門出とするのが

  仏前結婚式の意義です。

  【入仏式】(お仏壇購入時)

  お仏壇を新調(あるいは修復)して、ご本尊をお迎えする際に営む法要です。

  最近はお仏壇のない家庭が増えていますが、そもそもお仏壇は「亡き人を祀る場所」ではなく、

  「いのちの尊さと真実に気づいていく場所」です。

  家族みんなでお仏壇に手を合わすとき、そこに「和」が生まれるのです。

  【帰敬式】 (何歳でも)

  これから先、仏弟子として仏法を聞き、仏道に励むことを決意するのが帰敬式です。

  帰敬式の際には御門主による「おかみそり(剃髪を模した儀式)」が行われ、仏弟子の証である法名が

  授与されます。

  なお、帰敬式は何歳からでも受けられますが、日にちは要確認なので注意してください。

  【起工式・上棟式・落慶】

  「土地神にその土地を使用する許しを請い、工事の安全を祈願する儀式」が神道の地鎮祭ですが、

  仏教の起工式は「起工に至るまでの数限りない縁に思いを馳せ、仏さまや先祖に喜びを報告する」という

  意味合いのものです。

  したがって、祈願ではなく報恩の法要なのです。

  【長寿の祝い】(60歳・70歳・77歳・80歳・88歳・90歳・99歳・100歳)

  不思議な縁によって、その年まで生かされてきたことを喜び、改めて命の尊さを見つめ直す法要です。

  これまで歩んできた我が身の人生の物語を次の世代に伝え遺すことも、先に生まれた者としての

  一つの務めなのかもしれません。

要するに仏事というのは、人生の節目をすべて仏縁と捉え、全身全霊をかけて仏法聴聞に身を入れていく「私のためにあるもの」です。生きている限り人は迷い続けます。だからこそお寺は生者のためにいつでも開かれているのです。

ポイント:お寺は人生のすべてに関わる場所。嬉しいにつけ悲しいにつけ、いつでも仏さまに報告しよう