入仏式

入仏式

昔の人の言葉に次のようなものがあります。

 仏壇がなければ家とは呼べず、ただの小屋。仏壇が入って初めてそれは家となる。

お仏壇は私たちにとって「心の拠り所」となる場所です。心の拠り所がない家というのは、ただ寝て、ただ食事するだけの塒(ねぐら)に過ぎず、それでは動物と何ら変わりありません。きちんとした拠り所があり、さらにそこから精神修養へ至ってこそ、人間の証であるというわけです。

そのため、かつての日本家屋はお仏壇を中心とした家づくりがなされていました。人間の生活空間の一角に仏さまを据える、という考え方ではなく、仏さまがおられる場所に人間が住まわせて頂く、という考え方だったのです。嬉しいにつけ悲しいにつけまずは仏さまへご報告。人から物を頂いた時も仏さまにまずお供えし、食事の際はお仏壇に手を合わせてから…という習慣が一昔前までは当たり前のこととして息づいていました。ことに浄土真宗ではお仏壇のことを別に「お内仏(ないぶつ)」と呼び慣わしてきたのも、お仏壇が手を合わす者(=私)の内にある仏の心を養う場所として機能していたからです。

お仏壇の主役の項にも書きましたが、お仏壇は「死者を祀る場所」ではありません。「私がいのちに目覚めていく場所」です。仏間がない、お仏壇は置かない、という家庭が増加の一途を辿る昨今ですが、痛ましい事件を未然に防ぐためにも、今こそ各家庭にお仏壇が必要なのではないでしょうか。手を合わせる親の元でしか手を合わせる子は育たないのですから。

では、ご自宅に新たにお仏壇を迎える場合、どのような点に注意すればよいのでしょうか。

まず購入時期ですが、これはいつでも構いません。ただしこれは“10年後、20年後でもよい”という意味ではなく、“日を選ぶ(大安や仏滅など)必要がない”という意味です。いつでも構いませんが「なるべく早めに」が大事です。

次にお仏壇の大きさや仕立て(漆塗りか木地か)ですが、これも特に決まりはありません。大きいから功徳があるとか、絢爛豪華だから仏さまが喜ぶだとか、そんなことはありません。むしろそういうことを気にかける私のエゴを正していくためにお仏壇があるのです。見栄ではなく、あなた自身が自然と落ち着くものをお求めください。

また、お仏壇の置き場所や向きに関しても全く気にすることはありません。そういう意味では「どこでもいい」ということになってしまうのですが、一つ提言させてもらうと「家族全員の目に入る場所」が好ましいです。仏さまに見守られている、と家族一人ひとりが意識することでそこに敬いの心が生まれるからです。

ただし、お仏壇の高さだけは要注意です。座った際に自分の目線よりも仏さまが上にくるように(私が仰ぎ見る形)しなければなりません。

お仏壇をおうちに迎えたら、僧侶を招いて入仏式を行います。これは私(家族)と仏さまが縁を結び、共にこれから生活していくことを決意する慶びの法要です。

お仏壇のお荘厳は五具足にします。それに加え、もし可能なら朱色のロウソク、普段よりちょっと良い香りのするお香を用意しましょう。

お仏壇はインテリアではありません。あなたが育てられていく場所です。

仏さまが喜ばれるのはお仏壇の値段でも供物の多少でもありません。

あなたが手を合わせるその姿を仏さまは一番喜ばれるのです。

ポイント:お仏壇は家族全員の心の拠り所。毎日のお参りが家族の和と、いのちを尊ぶ心を育てる。